イランでは、1979年の民衆革命を経て、王制からイスラーム共和制へ、という劇的な体制転換が生じた。イスラーム共和制の理論基盤となっているのは、革命で指導的な役割を果たしたイスラーム法学者であるホメイニー師が唱えた、「法学者の統治(ヴェラーヤテ・ファギーフ)」論である。イスラーム共和国憲法には、「イマームがお隠れで不在の間は、イスラーム法学者がイマームの代理として共同体を教え導く」というこの理論を具現化するための、様々な条項が盛り込まれている。

イラン・イスラーム共和国憲法の第1条は、イランの政体がイスラーム共和制であり、この体制には「全有権者の98.2%が」賛成票を投じたことを明記している。第2条は主権が神にあることを謳っており、第4条ではイスラーム共和国におけるあらゆる法律はイスラームの原理に基づくことが定められている。そして第5条では、イマームがお隠れでいる間は、「公正で徳高く実社会に関する知識を有し、勇敢で有能な」イスラーム法学者(ファギーフ)が、イスラーム共和国を指導するとされている。

憲法第56条によれば、主権は神にあるものの、その神は人間を、自らの社会的運命を決定する権利を持つ存在として創造した。よって何者も、神から人間に与えられたこの権利を奪うことはできない。そのように定めた上で憲法は、イラン・イスラーム共和国の統治権力は立法権、行政権および司法権からなり、相互に独立するこれらの三権はいずれも最高指導者の導きのもとに、憲法の諸原則に基づき行使されることを定めている。

最高指導者

イラン・イスラーム共和国の最高指導者は、「宗教的かつ政治的」な統治権を有する(憲法第107条)。初代最高指導者は、カリスマ的な革命の指導者ホメイニー師が努めたが、ホメイニー師の亡き後、最高指導者は国民の直接投票により選ばれる専門家会議メンバーにより決定されることになっている。 初代最高指導者であるホメイニー師が1989年6月に逝去すると、当時大統領を務めていたアリー・ハーメネイー師が、専門家会議の決定により最高指導者に就任した。

(1) 最高指導者に求められる資質

  • イスラーム法学上の様々な問題にまつわる法判断に必要とされる学識
  • イスラーム共同体を導くのに必要とされる公正さと敬虔さ
  • 指導者に必要とされる適切な政治的・社会的洞察力、慎重さ、勇気、権威、国家運営能力

(2) 最高指導者の権限

  • 体制利益判別評議会との協議をふまえたイラン・イスラーム共和国体制の施政方針の決定
  • 体制の施政方針の適正な遂行の監督
  • 国民投票の実施宣言
  • 統帥権
  • 宣戦布告、和平の受諾、軍の動員
  • 以下の者の任命、解任、辞任の受理
    • 監督者評議会メンバーのイスラーム法学者6名
    • 司法長官
    • イラン国営放送総裁
    • 全軍統合参謀長
    • イスラーム革命防衛隊総司令官
    • 国軍及び治安維持軍の総司令官
  • 三権間の対立の解消と調整
  • 通常の方法では解決が不可能な込み入った問題の体制利益判別評議会を通じた解決
  • 国民により選ばれた大統領の認証
  • 最高裁判所が大統領による違反行為を認定した場合、あるいは国会が大統領は不適格との決定を下した場合、これに基づく大統領の罷免
  • 司法長官の推薦を受けての恩赦および減刑の実施

立法府

イラン・イスラーム共和国において、立法権は国民による直接投票で選出された議員から構成される国会により行使される。憲法はまた、「非常に重要な経済的、政治的、社会的、文化的問題については」、国民投票により立法権が行使されることもあることを定めている。国民投票は、国会議員全員の3分の2の承認を得て実施される。

(1) 国会の構成と権限

国会議員の任期は4年である。憲法は国会の定数を270名と定めているが、定数は10年ごとに見直し、「最大20名まで」増員することが認められている。この規定に基づき、2000年に実施された第6期国会選挙から、国会議員の定数は290名に増員された。

イラン・イスラーム共和国憲法は宗教少数派にも合計5議席を割り当てており、ゾロアスター教徒は1名、ユダヤ教徒も1名、アッシリア系およびカルデア系キリスト教徒はあわせて1名、南部及び北部のアルメニア人キリスト教徒はそれぞれ1名の議員を選出することになっている。

国会は、イスラーム教の原則及び憲法に違反しない範囲で、あらゆる問題に関わる法律を審議・制定できることになっている。政府提出の法案は閣議決定後、議会に送付される。一方、議員15名以上の賛同があれば、法案を上程することができる。

国会はまた、大統領が指名した閣僚に対する信任投票を行う。信任には投票総数の過半数の賛成が必要とされる。国会は閣僚を喚問する権限も有し、喚問動議は最低10名の議員の署名により上程される。動議の対象となった閣僚による答弁次第では、信任投票が実施される。この投票で信任が得られなかった場合、閣僚は免職となる。

憲法第90条は、国会に「三権による権限の執行方法に対する苦情」を調査し、回答を提示することを義務付けている。国会では憲法第90条委員会を設置し、このような問題に対処している。

(2) 監督者評議会による立法の監督

国会が可決する法律がイスラームの原則に適っているか否かは、監督者評議会が判定することになっている。監督者評議会の設置は憲法第91条に定められており、そのメンバーは「公正かつ時代の要請及び問題点に精通するイスラーム法学者6名(最高指導者が任命)」と「法律の各分野に精通する法律学者6名(最高指導者が任命する司法長官が指名し、国会が承認)」から構成される。法案がイスラームの原則に違反しないとの認定は、イスラーム法学者の過半数により、また、法案が憲法に違反しないとの認定は、監督者評議会メンバー全員の過半数により行われる。

憲法の解釈は監督者評議会の権限に属し、監督者評議会メンバーの4分の3の賛成により、解釈が決定される(憲法第98条)。

(3) 体制利益判別評議会による裁定

国会で可決された法案を、監督者評議会が承認せず、その法案をめぐる国会と監督者評議会の間の対立が解消されない場合、法案は「体制の利益」という観点から最終的な判断を下す権限を有する体制利益判別評議会に送られる。1988年2月に設置された体制利益判別評議会のメンバーは、最高指導者が任命する。

行政府

イラン・イスラーム共和国において、大統領は最高指導者に次ぐ第2の権力者である。大統領の任期は4年であり、継続的な再選は1回に限り許される(第114条)。

(1) 大統領に求められる資質

大統領は、「宗教的及び政治的に優れた人格を有する卓越した人物」でなければならず、さらに、「生粋のイラン人でイラン国籍を持ち、管理能力があり慎重で、評判がよく正直かつ敬虔で、イスラーム共和国の原則と国教を信じ、これに忠実である者」でなければなない(憲法第115条)。

(2) 大統領の罷免

国会議員の3分の1以上が大統領の喚問決議を行った場合、大統領は1ヵ月以内に議会に出席し、問題に関する答弁を行う。その後3分の2以上の議員が大統領を無能と判断した場合、国会はその理由を最高指導者に通告する。最高指導者はこの通告を受けて、大統領を罷免する権限を持つ。最高裁判所が大統領による違反行為を認定した場合にも、最高指導者はこの認定に基づき、大統領を罷免する権限を有す。

司法府

イラン・イスラーム共和国において、司法権内で最高の地位を占める司法長官は最高指導者により任命される。司法長官は「公正で司法に通暁し、管理能力を有しており、かつ有能な」イスラーム法学者であることが求められ、その任期は5年である。

司法府の傘下には、最高裁判所、検察庁、軍事法廷、行政裁判所、各州司法局が置かれる。また、法律の適切な施行を監督する機関として、司法府の傘下には全国監察庁が設置されている。

<注>

本稿は、坂梨祥「イラン・イスラーム共和国」松本弘編『中東・イスラーム諸国 民主化ハンドブック2014 第1巻 中東編』人間文化研究機構「イスラーム地域研究」東京大学拠点, 2015, pp. 37-54. を基にしている。

<資料>

大統領選挙法

https://www.shora-gc.ir/fa/news/2952/قانون-انتخابات-ریاست-جمهوری-اسلامی-ایران

国会選挙法

https://www.shora-gc.ir/fa/news/5730/قانون-انتخابات-مجلس-شورای-اسلامی