クウェート/選挙
概要
クウェートでは1963年の第1回国民議会選挙から、直近の2020年12月選挙までに16回、憲法裁判所の違憲判断により無効となった2012年2月選挙と2012年12月選挙も含めると18回の国政選挙が実施されている。この他、議会解散・憲法停止中の1990年6月に立法権のない諮問評議会選挙が実施された。女性参政権は1999年に首長令によって付与されたものの議会で承認されず、その後、2005年に選挙法の改正が議会で承認されたことで認められ、2006年6月選挙で実現した。女性議員は2009年5月選挙で初めて4名選出されたが、2016年11月選挙では1名のみ、直近の2020年12月選挙では0となった。
選挙制度
国民議会の議員定数は憲法で50名と定められている。選挙法(法律1962年第35号)に基づく選挙制度は、10選挙区、各定数5の完全連記制であった。1980年に首長令により改正され、25選挙区、各定数2の完全連記制となり、1981年選挙から2006年選挙まで適用された。1980年の改正は、1981年に議会を再開するにあたって、あらかじめ政府側が安定的に過半数を維持できるよう、首長および首長家に忠誠を誓う部族代表の当選を容易にし、他方でイラン革命の影響を受けて政治的要求を強めるシーア派住民の代表の当選を抑えるべく、選挙区を街区単位で細分化したものであった。しかし、当選に必要な最低得票数が少ないため、票の買収が容易で横行する、議員の関心が街区への住民サービスや利益誘導に偏る、人口動態の変化で一票の格差が最大6倍を超えるなど弊害が目立ったことから、選挙法改正の議論が本格化し、2006年6月選挙の争点となった。
2006年選挙の結果、野党側が推す改正案が通り、5選挙区、各定数10、4名までの制限連記制となり、2008年5月選挙から2012年2月選挙まで適用された。選挙区の統合拡大により当選に必要な最低得票数が引き上げられ、1票の格差も約2倍に緩和された。選挙制度は野党有利に働き、議員の議会活動の活発化につながったが、それによって政府と議会の対立も深刻化した。2012年10月には緊急法令(首長令)により投票方法が4名までの制限連記制から1人1票の単記非移譲式に変更された。
選挙権は21歳以上のクウェート人にあり、毎年2月に有権者登録が行われる。被選挙権は憲法で30歳以上とされており、アラビア語の読み書き能力が十分にあることが必要である。軍人と警察官は選挙権・被選挙権とも行使できない。また、帰化による国籍取得者も国籍取得後20年間は選挙権・被選挙権とも行使できない。首長家一族は選挙権・被選挙権の行使を法的に制限されておらず、投票は行うが立候補はしないことが慣例となっている。女性参政権は上述の通り2006年6月選挙で実現した。期日前投票制度は無い。在外投票制度は2020年12月で実現した。
選挙管理に関しては、最高司法評議会により最高選挙管理委員会が設置され、各投票所では裁判官が選挙管理の責を担い、会場設営や有権者登録の確認などの手続きは内務省選挙局の職員が担当する。立候補の登録は2020年12月選挙から、それまでの50KD(クウェート・ディーナール)から500KDへと大幅に引き上げられた。予備選挙は禁止されているが、部族単位で、部族代表の選出と本投票における票割のために予備選挙が公然と行われている。選挙活動について、活動資金の規制や支出内訳報告義務は無い。屋外広告掲示については、交通の妨げにならない範囲で規制されているが、新聞広告やテレビのスポットCM出稿に規制はない。選挙活動は投票日前日の午後8時までとなっているが、実際は投票日当日にも投票所周辺で運動員や候補者本人が投票を呼びかける様子が見られる。
補欠選挙 2021年5月22日投開票
第5選挙区選出のバドル・ダーフーム議員が憲法裁判所により議員資格無効の決定を下され、マルズーク・ガーニム議長により議員資格喪失・失職を宣言されたことにより実施された。選挙は2021年4月13日に公示され、15名が立候補を届け出た。バドル・ダーフームの代理として、2012年2月議会の議員であったクウェート大学法学部教授のオベイド・ワスミーUbayd al-Wasmiが野党統一候補に推されて立候補した。野党側は、憲法と議会を弱体化させる試みに対し、民衆から拒否を突きつけようとキャンペーンを展開した。投票率が28%であったにもかかわらず、オベイド・ワスミーは投票者の約9割からクウェート議会選挙史上最多得票となる43801票を獲得して当選した。
- 有権者数 男性84,777名 女性81,445名 計165,222名
- 立候補者数 15名
- 投票率 28%
第16回選挙 2020年12月5日投開票
2003年以来、(1999年議会以来)の任期満了にともなう選挙となった。2020年9月にサバーフ首長が亡くなったことによる服喪期間のため、当初の予定より1カ月ほど遅れて実施された。19名が再選、7名の元職が復帰。ムスリム同胞団の政治団体であるイスラーム立憲運動(ICM)が3議席を獲得。シーア派議員は6名が当選。女性の当選は0。
- 有権者数 男性273,940名 女性293,754名 計567,694名
- 立候補者数 326名(うち女性33名)
- 投票率 69.4%
選挙の結果は、野党優位の議会構成となった。選挙後、政府の意向に従うマルズーク・ガーニムの議長再選を阻むべく、36名(途中参加を含めて38名との報道もあり)の議員が会合を持ち、新議長候補として元公共事業大臣のバドル・フマイディーBadr al-Humaidiに投票することに37名の議員が合意した。しかし、実際の議長選では両名併記の無効票が3票あり、バドル・フマイディーの得票は28票にとどまり、34票を獲得したマルズーク・ガーニムが議長に再選された。議長選でバドル・フマイディーに投票した議員は野党として結束を深めつつあり、大臣を含む総議員の絶対過半数には届かないものの、民選議員の過半数を占めているため、大臣に対する不信任決議案が提出された場合の対応で政府側が不利な状況となっている。
第15回選挙 2016年11月26日投開票
石油価格の下落に伴う緊縮財政の一環として、補助金削除とガソリン価格の引き上げを図る政府に対し、野党議員が批判を強め、財務大臣と司法大臣に辞任を求めて不信任決議案の前段階となる問責質問を求めたことで、サバーフ首長は2016年10月19日に議会を解散した(公式には安全保障上の理由として解散)。投票方式の変更(4人までの制限連記制から単記非移譲式への変更)とその手続きについて異議を唱え、2012年12月選挙と2013年7月選挙をボイコットしていた野党勢力が復帰参加したことにより、投票率が過去2回に比べ大きく上昇した。
- 有権者数 男性230,430名 女性252,756名 計483,136名
- 立候補者数 293名(うち女性14名)
- 投票率 70%
選挙結果について、野党側は24議席を獲得した。ムスリム同胞団の政治団体であるイスラーム立憲運動(ICM)が4議席を獲得した。議員全体では20名が再選を果たした。シーア派議員は6名が当選。女性の当選は1名であった。有力部族の代表が議席を減らす一方、30歳で歴代最年少議員となるナセール・ドゥサリーNasir al-Dawsariをはじめ若い世代からの選出が増えた。選挙後、野党側は議長候補の調整に苦慮し、マルズーク・ガーニムが48票を獲得して2013年議会に引き続き議長に選出された。