(1)2014年大統領選挙

旧憲法のもとでは、シリアにおける内政と外交、さらには軍事を司っている大統領を選出するプロセスは、「バアス党シリア地域指導部」が推挙した候補者に対して国民が投票を行うというものであった。すなわち、バアス党員のみが大統領職への「パスポート」を有しており、「包括的抑圧体制」のもとで「市民的・政治的自由」に大幅な制約が加えられているなかでは、結果的に「信任投票」が行われてきたのである。 

しかしながら、シリアにおける反体制運動の高揚には、こうしたバアス党の優越的地位に対する批判が重要な役割を果たしたことから、現憲法においては、第85条で大統領職に対する複数立候補制が導入された。また、大統領職における任期制限(最大2期14年)も第88条で規定された。他方、大統領職への立候補要件を定めている第84条には、40歳以上という年齢やシリア国民という国籍といった要件に加え、候補者として推挙される時点(第85条の規定により、少なくとも国会議員35名の支持を得る必要がある)までに、シリア国内に最低10年間継続して住み続けていなければならないとの要件(旧憲法には存在せず)も含まれていた。この居住要件は、反体制側の指導者の多くがシリアから国外に逃れているなかで、そうした指導者の立候補を阻止するために導入されたものである。したがって、有力な対立候補が存在せず、B・アサド大統領の再選が当初から確実視される状況であっては、実質的にはこれまでの「信任投票」と大きく変わることがなかったことから、反体制側及びその後ろ盾である欧米・湾岸アラブ諸国は、大統領選挙そのものを「茶番」と見なし、同選挙の正当性を認めないとの立場をとった。

結局のところ、2014年6月3日に実施された選挙においては、B・アサド以外に「泡沫候補」である2名が立候補した。公式発表によると、B・アサドは、88.7%の得票率(投票率は73.42%)でもって再選され1、7月16日から3期目の政権をスタートさせた。そして、B・アサドは自らの再選に勢いを得て、北のアレッポからホムス、ダマスカスを経て南のダラアーに至るシリア随一の基幹エリア「南北回廊」と、アサド家の本拠地である北西部ラタキアに焦点を当て、これら地域に位置する反体制勢力の拠点に空爆を中心とした猛攻をSAAに指示した。この結果、大統領選挙は政治・軍事両面において、アサド政権と反体制側並びに欧米・湾岸アラブ諸国との溝を広げる方向に作用したのである。

(2)2012年国会議員選挙

2012年の憲法改正により、「政治的多元主義」及び複数政党制が第8条(旧憲法ではバアス党の「指導的立場」が規定されていた)で規定され、同年5月7日には、現憲法下で初めての国会議員選挙が実施された。だが、SAA並びに治安部隊と反体制勢力との間で武力衝突が続く状況であり、ゆえにアサド政権の支配地区でのみ選挙が行われ、反体制側は選挙に参加しなかった。結局のところ、定数250に対して7195人が立候補するなかで、バアス党主体の与党連合「国民進歩戦線」が150議席を獲得する一方、バアス党寄りの人物が独立系候補として立候補し、90議席を獲得した。また、公式発表によると、投票率は51.26%であった2

(3)2016年国会議員選挙

現憲法の第56条において、議員任期は通常4年と定められている。そこで、2016年4月13日に国会議員選挙が行われたものの、前回の2012年選挙と同様に、武力衝突が続いている状況であったことから、アサド政権の支配地区でのみ選挙が行われ、反体制側は選挙に参加しなかった。結局のところ、定数250に対して約3500人が立候補するなかで、バアス党主体の与党連合「国民進歩戦線」が200議席を獲得した。また、公式発表によると、投票率は57.56%であった3

(4)2020年国会議員選挙

新型コロナウィルス感染症の拡大により、2020年4月以降2度にわたり延期されていた国会議員選挙は、7月19日に実施された。国土の7割程度を掌握していると見なされているアサド政権の支配地区でのみ選挙が行われ、反体制側は選挙に参加しなかった。結局のところ、定数250に対して1656人が立候補する4なかで、バアス党主体の与党連合「国民進歩戦線」が177議席を獲得した5。また、投票時間は午後11時まで4時間延長され6、公式発表によると、投票率は33.17%であった7。なお、ヒシャーム・シャアル法相は選挙後に、投票率の低さの要因として、新型コロナウィルス感染症の拡大並びに国境閉鎖に伴う在外シリア人による投票権の不行使を挙げた8

脚注

  1. ‘Asad Wins Syria Election with 88.7 Percent of Votes: Speaker’ <https://www.reuters.com/article/uk-syria-crisis-election-assad/assad-wins-syria-election-with-88-7-percent-of-votes-speaker-idUSKBN0EF21C20140604> (2020年8月11日最終アクセス).
  2. 2012年選挙については以下を参照。‘Syria’ Political Struggle: Spring 2012’ <http://www.understandingwar.org/sites/default/files/Backgrounder_SyriasPoliticalStruggle_Spring2012.pdf>(2020年8月11日最終アクセス).
  3. 2016年選挙については以下を参照。‘Syrian Arab Republic: Majlis al-Chaab (Syrian Assembly)’ <http://archive.ipu.org/parline-e/reports/2307_E.htm> (2020年8月11日最終アクセス).
  4. ‘Ballot Boxes Open for Electors to Select Their Candidates for the 3rd Parliamentary Legislative Term’ <http://sana.sy/en/?p=197525> (2020年8月11日最終アクセス).
  5. ‘Syria: Assad’s Baath Party Wins Majority in Parliamentary Polls’ <https://www.aljazeera.com/news/2020/07/syria-assad-baath-party-wins-majority-parliamentary-polls-200722065257820.html> (2020年8月11日最終アクセス).なお、当選者のリストについては、以下を参照のこと。<http://sana.sy/?p=1189243>(2020年8月11日最終アクセス).
  6. ‘Ballot Boxes for People’s Assembly Elections Closed’ <http://sana.sy/en/?p=197695> (2020年8月11日最終アクセス).
  7. ‘Higher Judicial Committee for Elections Announce the Results of People’s Assembly Elections for the Third Legislative Term’ <http://sana.sy/en/?p=197900>(2020年8月11日最終アクセス).
  8.  ‘Decrease in Participation in People’s Assembly Elections Due to Coronavirus, Presence of Syrians Abroad’ <http://sana.sy/en/?p=197922> (2020年8月11日最終アクセス).