2011年の「アラブの春」にともなう内戦とカダフィ政権崩壊を経て、現在(2021年8月時点)のリビアでは議院内閣制が採用されている。その根拠は、「憲法宣言(Constitutional Declaration)」(2011年8月発表、その後随時修正)および「リビア政治合意(Libyan Political Agreement)」(2015年12月締結)である。ただし、2021年12月24日に予定される国政選挙(大統領・議会選挙)をめぐり、今後政治制度が大きく変更される可能性がある。

「リビア政治合意」にもとづき、2016年1月に「国民合意政府(Government of National Accord: GNA)」が発足した。その後、2020年1月の独ベルリンでのリビア安定化に関する国際会議(Berlin International Conference on Libya)、2020年11月に発足した「リビア政治対話フォーラム(LPDF)」での議論にもとづき、2021年3月に国民統一政府(Government of National Accord: GNU)が設立された。GNUはあくまでも暫定政権という位置づけであり、任期は2021年12月24日に予定される国政選挙(大統領・議会選挙)の完了までと定められている。同政府の体制はアブドゥルハミード・ドゥバイバ(ドベイバ)首相以下、副首相2名、閣僚35名(うち国務大臣6名)で構成される。国防相は政治対立を避ける意図から空席のまま発足した。また、大統領と同様の立場で外交・内政の儀礼的役割を担う首脳評議会(Presidential Council: PC)が存在し、議長と副議長2名が東・西・南の地域から1名ずつ選出される。

立法府は2014年7月の選挙によって選ばれ、リビア東部のトブルクに拠点を置く代表議会(House of Representatives: HOR)が担う。また、トリポリに拠点を置く高等国家評議会(High Council of State: HCS)は政府の諮問機関として、GNCが議決した重要法案を承認・拒否する権限を持ち、GNUが提出する法案や国際的合意に対しても法的拘束力のある意見を提示できる。

「憲法宣言」

「憲法宣言」は内戦中の2011年8月3日、反体制派勢力である国民暫定評議会(National Transitional Congress: NTC)によって締結、同月10日に発表された。同宣言はいわば草案であり、議会による修正および承認決議を経て、国民投票によって3分の2以上の承認を得れば正式な憲法として制定される。

同宣言が締結された時点では、2012年7月の国民議会(GNC)の設立後すみやかに憲法起草委員が任命され、正式な憲法の起草・制定が行われると見込まれていた。しかし、憲法起草委員を選挙によって選ぶこととなり、またリビアの政治情勢が混乱したことから、2021年8月に至るまで正式な憲法は制定されていない。代わりに、GNCやGNCは「憲法宣言」を修正することで政治プロセスを進めてきた。2021年12月に予定される国政選挙の後、憲法承認のための国民投票の実施が見込まれている。

「憲法宣言」第1条には、リビアが民主国家であること、首都はトリポリであること、国教はイスラームであり、イスラーム法(シャリーア)が法制度の根源であるが、国家は非ムスリムにも信仰の自由を保障すること、公用語はアラビア語であることが定められている。また、「少数民族」という言葉は用いられず、「リビア社会の構成要素(components of the Libyan society)」として示され、アマージグ(ベルベル)、トゥーブ、トゥアレグに対して言語的・文化的権利を保障するとされている。

第4条には、国家は、政治的多元主義と多党制に基づく政治的民主制の確立に努め、権力の平和的・民主的交代を実現すると定められている。

第9条には、祖国の防衛、国家の団結の維持、文民統治・憲法・民主的制度の維持、市民の価値観の順守、地域・部族・氏族にもとづく対立との戦いは、全国民の義務であると定められている。

カッザーフィー政権期の法制度について、第35条では、既存の法律は修正・廃止されるまで、「憲法宣言」の内容と矛盾しない限りにおいて有効であると定められている。前政権で定められた法律における政治機構への言及は、国民暫定評議会や今後の移行政府に置き換えられる。また、カッザーフィー政権期の正式な国名「大リビア・アラブ社会主義人民ジャマーヒーリーヤ国(Great Socialist People’s Libyan Arab Jamahiriya)」は、「リビア(State of Libya)」に置き換えられる。