政治変動DB記事
2019年1月18日

趣旨

このホームページは、人間文化研究機構(NIHU)「現代中東地域研究」東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所(AA研)拠点に属する政治変動研究会のものです。政治変動研究会は、文字通りイスラーム諸国の政治変動を研究することを目的としていますが、その活動のひとつに「中東・イスラーム諸国 政治変動データベース」の構築と公表があります。このホームページには、そのデータベースが掲載されています。

データベースの対象国は、中東(西アジアと北アフリカ)のみならず、中央アジア・南カフカス、西南アジア、東南アジアのイスラーム諸国(人口の半数以上をムスリムが占める国々)であり、データベース掲載国はこれから順次増えていく予定です。

データベースは、各国ごとに「政治体制・制度」、「最近の政治変化」、「選挙」、「政党」の4項目からなっています。「政治体制・制度」は憲法などに規定された三権の内容など、国家の基本構造を解説し、「最近の政治変化」は近年の政治的変化を簡潔にまとめています。「選挙」は選挙制度の解説と最近の議会選挙や大統領選挙などの結果を記載し、「政党」は政党制度と主要な政党、政治団体を解説しています。

以前に比べると、新聞などのメディアで多くの国の選挙が報道されるようになりました。1990年の冷戦崩壊以降、「民主化の第三の波」と呼ばれた大きな政治変動を経て、大半の国々で選挙がより大きな政治的意味を持つようになった結果であろうと思います。しかし、報道レベルでの選挙の結果やその解説は、量的・時間的制約などから、どうしても簡略化された内容となり、その意味するところが読者一般に十分には伝わっていないことが多いように思います。そこで、まずはデータベースの当該国をご覧いただき、その国の選挙結果にかかわるさまざまな内容や変化を理解する一助としていただきたいということが、我々の当面の目的です。

しかし、政治変動研究会やそのデータベースの目的は、これにとどまりません。イスラーム諸国に限らず、日本における諸外国の政治研究に最も欠けている点は、基礎研究であろうと思われます。もちろん、眼前の政治状況や事件が、報道だけでなく外交や経済活動の第一の関心事であることは明らかです。しかし、その理解のためには、憲法の規定やその変遷、選挙・政党に関わる制度とその変化など、政治変動の基層や背景にある基本情報の整理と提供が不可欠であることも、また明らかであると思います。冷戦期には、憲法規定や選挙自体にかかわる政治的意味が小さかった事例も多くありましたが、冷戦崩壊後には、それらの意味は格段に重要度を上げています。それゆえ、対象各国にかかわる政治制度や選挙・政党の基礎研究が、政治変動研究会の目的になります。

また、冷戦崩壊後の民主化は政治的な安定とは逆に、内戦などの混乱や、民主化の後退といった再権威主義化をもたらした事例もあります。2011年「アラブの春」のあとの、いくつかのアラブ諸国はその典型例ですが、そのような政治的な混乱や不安定にかかわる研究も当然、政治変動研究会の目的になります。さらに、少数ではありますが、政治制度として政党や立法権を有する議会が存在しないという国々もあります。これらの事例もデータベースの対象国とし、その政治制度や政治状況にかかわる解説を提供します。

データベースの各国の執筆者には、気鋭の研究者を揃えることができました(ぜひ「執筆者一覧」をご覧ください)。執筆者の方々には、完全なボランティアでこの研究会にご参加いただいております。この場をお借りして、厚く御礼申し上げます。「中東・イスラーム諸国 政治変動データベース」が、対象の国々の政治的な制度や変化の理解に資することができれば、それは執筆者陣の望外の喜びです。上記しましたように、データベース掲載国は順次増えていきますので、継続してご覧いただければと思います。なお、データベースにおける執筆者の見解は個人のものであり、現代中東地域研究によるものではないことを記しておきます。

(文責:松本弘)

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現在の政治体制・制度
リビア
2021年9月21日

リビア/現在の政治体制・政治制度

2011年の「アラブの春」にともなう内戦とカダフィ政権崩壊を経て、現在(2021年8月時点)のリビアでは議院内閣制が採用されている。その根拠は、「憲法宣言(Constitutional Declaration)」(2011年8月発表、その後随時修正)および「リビア政治合意(Libyan Political Agreement)」(2015年12月締結)である。ただし、2021年12月24日に予定される国政選挙(大統領・議会選挙)をめぐり、今後政治制度が大きく変更される可能性がある。

「リビア政治合意」にもとづき、2016年1月に「国民合意政府(Government of National Accord: GNA)」が発足した。その後、2020年1月の独ベルリンでのリビア安定化に関する国際会議(Berlin International Conference on Libya)、2020年11月に発足した「リビア政治対話フォーラム(LPDF)」での議論にもとづき、2021年3月に国民統一政府(Government of National Accord: GNU)が設立された。GNUはあくまでも暫定政権という位置づけであり、任期は2021年12月24日に予定される国政選挙(大統領・議会選挙)の完了までと定められている。同政府の体制はアブドゥルハミード・ドゥバイバ(ドベイバ)首相以下、副首相2名、閣僚35名(うち国務大臣6名)で構成される。国防相は政治対立を避ける意図から空席のまま発足した。また、大統領と同様の立場で外交・内政の儀礼的役割を担う首脳評議会(Presidential Council: PC)が存在し、議長と副議長2名が東・西・南の地域から1名ずつ選出される。

立法府は2014年7月の選挙によって選ばれ、リビア東部のトブルクに拠点を置く代表議会(House of Representatives: HOR)が担う。また、トリポリに拠点を置く高等国家評議会(High Council of State: HCS)は政府の諮問機関として、GNCが議決した重要法案を承認・拒否する権限を持ち、GNUが提出する法案や国際的合意に対しても法的拘束力のある意見を提示できる。

「憲法宣言」

「憲法宣言」は内戦中の2011年8月3日、反体制派勢力である国民暫定評議会(National Transitional Congress: NTC)によって締結、同月10日に発表された。同宣言はいわば草案であり、議会による修正および承認決議を経て、国民投票によって3分の2以上の承認を得れば正式な憲法として制定される。

同宣言が締結された時点では、2012年7月の国民議会(GNC)の設立後すみやかに憲法起草委員が任命され、正式な憲法の起草・制定が行われると見込まれていた。しかし、憲法起草委員を選挙によって選ぶこととなり、またリビアの政治情勢が混乱したことから、2021年8月に至るまで正式な憲法は制定されていない。代わりに、GNCやGNCは「憲法宣言」を修正することで政治プロセスを進めてきた。2021年12月に予定される国政選挙の後、憲法承認のための国民投票の実施が見込まれている。

「憲法宣言」第1条には、リビアが民主国家であること、首都はトリポリであること、国教はイスラームであり、イスラーム法(シャリーア)が法制度の根源であるが、国家は非ムスリムにも信仰の自由を保障すること、公用語はアラビア語であることが定められている。また、「少数民族」という言葉は用いられず、「リビア社会の構成要素(components of the Libyan society)」として示され、アマージグ(ベルベル)、トゥーブ、トゥアレグに対して言語的・文化的権利を保障するとされている。

第4条には、国家は、政治的多元主義と多党制に基づく政治的民主制の確立に努め、権力の平和的・民主的交代を実現すると定められている。

第9条には、祖国の防衛、国家の団結の維持、文民統治・憲法・民主的制度の維持、市民の価値観の順守、地域・部族・氏族にもとづく対立との戦いは、全国民の義務であると定められている。

カッザーフィー政権期の法制度について、第35条では、既存の法律は修正・廃止されるまで、「憲法宣言」の内容と矛盾しない限りにおいて有効であると定められている。前政権で定められた法律における政治機構への言及は、国民暫定評議会や今後の移行政府に置き換えられる。また、カッザーフィー政権期の正式な国名「大リビア・アラブ社会主義人民ジャマーヒーリーヤ国(Great Socialist People’s Libyan Arab Jamahiriya)」は、「リビア(State of Libya)」に置き換えられる。

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