現在の政治体制・制度
アラブ首長国連邦
2021年8月30日

アラブ首長国連邦/現在の政治体制・制度

アラブ首長国連邦(UAE)は、7つの君主制の首長国から構成される連邦国家である。1971年12月2日に英国の保護領から独立し、現在に至る。政治体制は、UAE 恒久憲法(以下憲法)において規定されている。

政治体制は憲法第1条において、「UAEは独立した、主権を有する、連邦制の国家」と定められている。連邦を構成する首長国は、アブダビ、ドバイ、シャルジャ、アジュマーン、ウンム・アル=クワイン、ラアス・アル=ハイマ、フジャイラが列記されている。各首長国には、長年同地を支配してきた首長家が存在し、首長位は首長家内で移譲されてきた。また憲法第45条により、連邦機関は①連邦最高評議会(al-Majlis al-’U‘lā li-l-Ittiḥād/The Federal Supreme Council)、②連邦大統領および副大統領、③連邦閣僚評議会(Majlis Wuzarā’ al-Ittiḥād/The Council of Ministers of the Federation)、④連邦国民評議会(al-Majlis al-Waṭanī al-Ittiḥādī/The Federal National Council; FNC)、⑤連邦司法、の5つから構成されることが定められている。

連邦政府の最高意思決定機関は、7首長によって構成されている連邦最高評議会である。連邦最高評議会の互選により、国家元首である連邦の大統領と副大統領が一名ずつ選出される。アブダビ首長が連邦大統領を務め、ドバイ首長が連邦副大統領と首相を務めることが慣習となっている。また大統領は首相を任命し、首相が組閣する。首相や閣僚の就任については、議会の承認を必要としていない。制度的には各首長国は対等な地位にあるものの、実態としては政治・経済の面でUAEの建国や発展を主導してきたアブダビとドバイが優位である体制が続いている。

UAEにおいて三権は分立されておらず、立法権と行政権は形式的に連邦最高評議会の監督・承認を受けるものとされている。

立法権は憲法第110条によって「閣僚評議会が法律案を起草し、連邦国民評議会に提出する。閣僚評議会は法律案を大統領および最高評議会に提出する。連邦大統領は、連邦最高評議会による承認を経たのち、法律に署名し、公布する」と定められている。閣僚評議会で起草された法案はFNCで審議・承認を受け、審議結果や勧告は閣僚評議会に提出される。ただし、閣僚評議会の決定はFNCの審議に左右されない。法律は最終的に大統領が署名し、その後公布される。

行政権は憲法第60条によって「閣僚評議会は、その連邦の行政機関としての資格並びに連邦大統領及び最高評議会の最高の監督に基づいて、この憲法及び連邦法に従い、連邦の権限内にあるすべての対内および対外事項を処理する責任を負うものとする」と規定されている。

司法権については、「司法は、統治の基礎である。裁判官は、独立であって、その職務遂行にあたり、法律および良心以外のいかなる権威にも服さない」(第94条)と規定される。また、最高裁判所の裁判官は、最高評議会の同意を得たのちに大統領命令によって任命される(第96条)。

連邦政府

UAEは連邦体制をとっており、連邦政府と首長国政府の間では行政上の管轄が分かれている。憲法第120条では、連邦政府が外交や軍事、治安、連邦財政、教育、公衆衛生などの管轄権を保持することが定められており、第122条によって首長国政府がそれ以外の管轄権を保持することが定められている。なお、天然資源に関する管轄権・処分権は憲法第23条によって各首長国が保持することになっている。またアブダビやドバイなど財政力のある首長国政府は、例えば教育など連邦政府の管轄分野であっても、独自の政策を実施することが少なくない。

UAEの最高意思決定機関は連邦最高評議会である。歴史的には7首長が一堂に会して重要な政策について議論していた時期もあったが、次第に形骸化するようになった。今日では、連邦最高評議会はほとんど開かれておらず、12月2日の建国記念日やイードなどの祝賀行事、5年に一回の大統領改選の際に7首長が集まる程度である。したがって、閣僚評議会(内閣)が実質的な最高意思決定機関となっている。閣僚評議会は首相と副首相、各省庁の大臣(閣僚)、国務大臣、事務局長らから構成されている。

連邦財政については、憲法によって各首長国の規模に応じた分担が定められている。しかしながら、北部首長国には財政を負担する能力がないため、豊富な石油資源を有するアブダビ首長国が大部分を負担してきた。また財源多角化のために2018年1月から5%の付加価値税(VAT)が導入されており、その30%は連邦財政に組み込まれる。連邦政府は国内資源の再配分機能を有しており、とりわけ北部首長国の基幹インフラの整備や教育政策、保健政策などにおいては中心的役割を担っている。

首長国政府

各首長国は世襲の首長によって統治されている。首長、副首長、皇太子が政治の中心となり、また他の首長家メンバーも首長国政府機関の要職に就くことが多い。首長府や執行評議会と呼ばれる機関が意思決定と政策の中心となり、その下に連邦政府の省庁に相当する専門部局が設置されている。またアブダビとシャルジャにはそれぞれ諮問評議会が設置されており、地元住民の意見を吸い上げる仕組みがある。

首長国政府財政は独立しており、基本的に独自の財源で賄われている。上述の通り、天然資源は各首長国が管轄しているため、UAEの原油埋蔵量の9割を保持するアブダビが必然的に豊かになる。ただし、北部首長国は天然資源に乏しく財政基盤が脆弱なため、独自で債権を発行して資金調達を行ったり、何らかの形でアブダビからの支援を受けたりしていると考えられる。また、2018年に導入されたVATの70%は徴収した首長国の財政に組み込まれている。

連邦国民評議会

UAEの議会にあたる連邦国民評議会(FNC)は1972年に設立された。議会制度は憲法第4章「連邦国民評議会」(憲法第68条~第93条)によって明文化されている。政府に対する諮問的な役割を担っており、政府から提出された法案を審議したり、各種政策について担当大臣や省庁関係者を喚問し議論することができる。しかしながら、連邦国民評議会には立法権が認められていない。

FNCは全40議席からなっており、アブダビおよびドバイは各8議席、シャルジャおよびラアス・アル=ハイマは各6議席、アジュマーン、ウンム・アル=クワイン、フジャイラは各4議席が割り当てられている。議員の任期は4年(2008年の憲法改正により、それまでの2年から延長)で、会期は10月第3週からの7か月間と定められている。

議員は、長らく首長による勅選が行われてきた。その後、2005年にハリーファ大統領が翌2006年にFNC選挙を実施することを発表した。これにより、全議席の半数にあたる20議席は、選挙による選出へと変更された。2001年の米国同時多発テロ事件以降、湾岸諸国は欧米からの民主化・改革圧力がかかっていた。また指導者層のなかには現状を政治的な「遅れ」と見る向きもあり、ある程度の政治改革の必要性は自覚されていたと言えるだろう。

参考文献

  • 堀拔功二 2011. 「アラブ首長国連邦」松本弘(編)『中東・イスラーム諸国民主化ハンドブック』明石書店, pp. 338-353.
  • 堀拔功二 2020. 「アラブ首長国連邦」日本エネルギー経済研究所中東研究センター(編)『JIME中東基礎講座2020年版』, pp. 44-50. 
  • UAE Cabinet “The Constitution” <https://uaecabinet.ae/en/the-constitution>
  • UAE Ministry of Justice “Laws and Legislation Portal” <https://elaws.moj.gov.ae/engLEGI.aspx>
  • UAE Ministry of State for Federal National Council Affairs <https://www.mfnca.gov.ae/en/>
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