憲法の概要

現在クウェートの政治体制はサバーフ家が首長位を世襲する立憲君主制であり、政治制度は1962年に公布されたクウェート国憲法に基づいている。同憲法は1976年から1981年と、1986年から1991年の二度にわたって停止され、1982年から1983年にかけて、政府が改正案を提案したこともあったが、現在まで改正はなされておらず、クウェートにおける政治のルールとして定着している。

クウェート国憲法(以下、憲法と表記)は、選挙で選ばれた国民の代表と首長家代表が制憲議会での検討を重ねて制定された経緯から、君主の権力に制限をかけ、国民の政治参加と諸権利を保障する、当時としては民主的で画期的な憲法であった。1961年6月に英国保護領から独立したのち、アブドッゥラー・サーレムAbdullah al-Salim al-Mubarak al-Sabah首長(在位1950-1965年)が同年8月に制憲議会選挙実施のための法律案の起草委員会委員を任命し、12月に制憲議会の設立を宣言した。翌1962年1月に制憲議会選挙が実施され、クウェート人成年男子より選出された20名の民選議員と、首長が首長家一族から任命した暫定内閣の閣僚からなる制憲議会が開会した。起草委員会での審議と本会議での承認を経て、1962年11月11日にアブドッゥラー・サーレム首長の署名により、183条からなる憲法が発布された。アブドッゥラー・サーレム首長が憲法に署名するシーンを撮影した写真は、クウェート憲政・議会政治の始まりのアイコンとして多用されており、同首長はクウェート憲政の父と称されている。

憲法は、1950年代に隆盛したアラブ・ナショナリズム運動の影響もあり、第1条でクウェートがアラブ諸国のひとつであることが宣言されている。第2条では国教をイスラームとし、シャリーアが主要な法源であると位置づけられている。第4条では首長位を大ムバーラクと称されるムバーラク・サバーフMubarak al-Sabah首長(在位1896-1915年)の子孫が継承すること、皇太子(厳密には首長位継承予定者Wali al-Ahd)は、首長の指名と国民議会の過半数の承認に基づき、首長が任命することが規定されている。特徴的なのは、将来の首長となる皇太子の任命に対して議会が拒否権を有しており、首長が指名した人物が議会の承認を得られなかった場合、首長は大ムバーラクの子孫から少なくとも3名を指名し、その中から議会が忠誠を誓った人物を皇太子に任命することとなっている。第6条では国民主権に基づく民主的統治が明記されている。

立法権および国民議会の権能

立法権は首長と国民議会(以下、議会と表記)に付与されており(第51条)、立法に関して相互に牽制しあう制度設計となっている。湾岸アラブ君主制の中でも議員の法律案提出権や大臣に対する質問権、大臣の罷免権があるなど議会の権能が大きいのが特徴である。

議会は一院制で、議員定数は50議席である。議員は普通選挙および秘密投票により選出される。議員の任期は4年である。法律案の提出は首長と議員に認められている(第65条、議員立法・第109条)。定足数は総議員数の過半数であり、議会の議決は基本的に出席議員の過半数の賛成により成立する。選挙で選出されていない大臣も職制上の議員とみなされ、総議員数に含まれており、委員会人事と大臣の信任投票案の投票を除いて議会の採決に参加する(第80条)。大臣の人数は議員定数の3分の1を超えないこととされており(最大16名)、そのうち少なくとも1名は民選議員から任命することが定められているため(第56条)、過半数は最大で33名となる(民選議員から大臣に任命される人数によって変化する)。

議会に提出された法律案は、議決・承認されたのち、首長が30日以内に裁可することで法律として発効する。首長は議会に法律案を差し戻して再検討を求めることができるが、それに対して総議員数の3分の2以上の賛成によって法律案が改めて承認された場合には、首長は30日以内(緊急の場合は7日以内)に裁可・公布しなければならない。首長が法律案の再検討を求めず、裁可を30日以内に行わない場合は、法律案は裁可されたものとされ、発効する(第65条・第66条)。

首長は、議会の休会中または解散中に、憲法と予算法の見積もりに反しない範囲で、法律と同等の効力を有する緊急法令(緊急勅令)を発布することができる。緊急法令は、議会の再開または選挙後の新しい議会が召集されてから15日以内に議会に提出されのち、議決による承認を得なければならない。議会が承認しなかった場合、緊急法令は基本的に遡及的に無効となる(第71条)。

議員は、法律案の提出だけでなく、政府の政策や問題に対する首相および所管の大臣への質問および、大臣の不信任決議案提出の前提となる問責質問を提出することが可能である。また、問責質問を経たのち、議員は10名の連署で大臣に対する不信任決議案を提出することができる。閣僚を除く過半数の民選議員の賛成により不信任決議案が議決された場合には、対象となる大臣は決議の日から辞職したものとされる(大臣の罷免権、第101条)。首相に対する不信任決議案の提出はできないが、代わりに議会から政府に対する非協力の通知として首長に送られ、首長が新たに首相を任命するか国会の解散と60日以内の選挙の実施を宣言する。議会の解散権は首長のみ有する。

行政権

行政権は首長と内閣(閣僚評議会Majlis al-Wuzara)、大臣に付与されている。首長は首相を任命し、首相の指名に基づいて大臣を任命する。議会に大臣の罷免権が認められているが、内閣は首長に責任を負う。首相が辞職する場合、他の大臣も辞職する(内閣総辞職)。

閣僚数は国民議会の民選議員定数である50名の3分の1を超えないことが憲法で規定されており、16名が最大である。大臣のうち少なくとも1名は民選議員から任命しなければならない。女性閣僚が2005年から任命されている。

司法権

司法権は、首長の名のもとにそれを行使する裁判所に付与されている。司法の独立が明記されており、裁判官人事については最高司法評議会の決定に基づいて首長が任命する。7名の裁判官からなる憲法裁判所が設置されている。