スーダンでは、独立前の1953年以降、選挙制度が導入されてきた。1989年にバシール大統領が政権を奪取して以降は、1996年、2000年、2010年、2015年に総選挙、1998年に憲法改正を問う国民投票、2011年に南部スーダン住民投票(南部の分離独立が決定)が行われた。バシール大統領は、いずれの選挙でも、高い得票率で大統領の座を維持してきた。立法府の下院にあたる国民立法議会においても、常に与党NCPが圧倒的に多くの議席数を獲得してきた。
2019年の政変により、バシール大統領は失脚し、NCPは11月に解体された。2019年8月の憲法宣言(第23条)では、今後立ち上げられる移行立法評議会においては、スーダンの変革に参加するすべての勢力の代表が含まれるようにすることを明記しつつ、バシール政権参加にあったNCPや関連勢力は排除することも盛り込まれた。2022年に予定される選挙が注目される。
選挙権
選挙権は、スーダン国籍を持ち、18歳以上であり、有権者登録を済ませており、市民及び政治的権利を享受していること、そして健全な心の持ち主であること、の条件を満たす者に認められる。海外在住者は、大統領選挙及び国民投票のための有権者登録はできるが、議会選挙はできない。以上は、2008年国民選挙法(2014年改正)に規定されている。
立候補資格
議会選挙立候補者として認められるのは、スーダン国籍を持ち、21歳以上であり、健康で読み書きができ、立候補前の7年間にわたって犯罪で有罪を受けたことがなく、州議会・州政府メンバーでなく、大臣職にも就いていない人物である。
今後立ち上げられる移行立法評議会の立候補資格もほぼ同様の内容である(2019年憲法宣言第25条)。
大統領選挙
大統領は、直接選挙により過半数を獲得することで当選する。必要に応じて2回投票が行われる。任期は5年である。南スーダン独立を決める住民投票前の2010年に実施された大統領選挙では、候補者は乱立するも、実質的にはバシール大統領(与党NCP)と南部スーダンの主力政党であるSPLM候補者であるヤーセル・アルマーンの対決となった。しかし、アルマーンが立候補を辞退したこともあり、結果としてバシール大統領68.2%、アルマーン候補21.7%(辞退により無効)となった。2010年の選挙の後、バシール大統領は次の大統領選には出馬しないことを表明したが、党内・政権内の世代交代が思ったように進まず、2014年10月にはNCPは、バシール氏を正式な大統領候補として選出することを決定した。 2015年4月13-16日に行われた大統領選挙では、バシール大統領が94.1%、他の15人の候補者は5.9%という得票率で、バシール大統領の再選となった。ただし、こうした選挙実施期間になると、投票箱のすり替えや選挙権を持たないものが投票する、無効な投票用紙が計上されている、などの不正や工作が報じられることがしばしばある。
なお、首相は大統領の氏名により選出されるが、1989年6月30日以降、バシール政権以下では首相ポストは廃止されていた。2015年から2016年の国民対話プロセスにおいて、首相ポストの復活がなされ、バシール大統領は2017年3月にサーレハ(Bakri Hassan Salih)首相を指名した。2019 年8月21日、FFCがハムドゥークを移行政府の首相に指名し、現在に至る。移行期間が終了する2022年に次の大統領選挙が実施される見込みである。
議会選挙
2005年から2019年4月までの暫定憲法において立法府と規定されていた全州評議会(上院)と国民立法議会(下院)があった。国民立法議会は、「自由かつ公平な」直接選挙によって議員が選出される。また、全州評議会は、州議会による間接選挙によって各州から3名ずつ選出される。両議会とも、任期は5年である。
最近では、2015年4月に国民立法議会選挙が、同年6月1日に全州評議会選挙が実施された。国民立法議会選挙では、バシール大統領率いる与党国民会議党(NCP)が426議席中323議席、続いて民主統一党(DUP)が25議席を獲得した。無党派の独立候補者19名も議席を獲得した。ただし、主要な野党勢力であるウンマ党や人民会議党などはこの選挙をボイコットした。国民立法議会における女性議員率は31%であった。全州評議会では18州の各州議会から3名ずつ、合計54名が間接選挙で選ばれた。加えて、係争地アビエイ地域議会から2名が、全州評議会で投票権のないオブザーバーとして選ばれた。全集評議会における女性の比率は35%であった。
2019年8月の憲法宣言により、2022年の選挙実施まで、立法府としてはこれらの両議会に代わって移行立法評議会が設立されることとなった。ただし、2020年9月現在、移行立法評議会は発足していない。
<参考:スーダンの選挙>
- 1953年 複数政党「自治」議会選挙
- 1958年 複数政党議会選挙
- 1965年 複数政党憲法議会選挙(北部スーダン)
- 1967年 複数政党憲法議会選挙(南部スーダン)
- 1968年 複数政党憲法議会選挙
- 1971年 大統領に関する国民投票(ヌマイリーのみが候補)
- 1972年 単一政党による人民議会選挙
- 1974年 単一政党による人民議会選挙
- 1977年 大統領に関する国民投票(ヌマイリーのみが候補)
- 1978年 単一政党による人民議会選挙
- 1980年 単一政党による人民議会選挙
- 1983年 大統領に関する国民投票(ヌマイリーのみが候補)
- 1984年 単一政党による人民議会選挙
- 1986年 複数政党議会選挙
- 1996年 単一政党/複数候補者による大統領選挙
- 1998年 憲法改正に関する国民投票
- 2000年 複数候補者による大統領・議会選挙、主要政党がボイコット
- 2010年 複数候補者による大統領・議会選挙、主要政党がボイコット
- 2015年 複数候補者による大統領・議会選挙
- 2022年 選挙実施予定
今後の見通し
2019年8月の憲法宣言にて、スーダンの移行期間後の2022年後半に民政移管を完了させるため、選挙の実施もされる予定が記載されている。なお、同宣言は、主権評議会の議長やメンバー、州知事、各地方の首長らが、2022年に実施予定の選挙に出馬することを禁止している。2022年の民政移管完了に向け、選挙実施に向けた準備が急務となっている。
参考文献
- CIA World Factbook, Sudan, https://www.cia.gov/library/publications/the-world-factbook/geos/su.html (last accessed September 3, 2020).
- International IDEA, “Draft Constitutional Charter for the 2019 Transitional Period,” http://constitutionnet.org/sites/default/files/2019-08/Sudan%20Constitutional%20Declaration%20%28English%29.pdf (last accessed September 3, 2020)
- Inter-Parliamentary Union, “Sudan Majlis Watani (National Assembly),” http://archive.ipu.org/parline-e/reports/2297_A.htm.
- Inter-Parliamentary Union, “Sudan Wajlis Welayat (Council of States),” http://archive.ipu.org/parline-e/reports/2298.htm (last accessed September 3, 2020).
- Justin Willis, Atta el-Battahani, and Peter Woodward, “Election in Sudan: Learning from Experience,” Lift Valley Institute, 2009.
- 安藤由香里「南部スーダン共和国独立への2つの選挙―スーダン総選挙と南部スーダン住民投票を監視して―」内閣府国際平和協力本部事務局『国際平和協力論文集』第2号、2012年http://www.pko.go.jp/pko_j/organization/researcher/pdf/02-ando.pdf (最終アクセス2020年9月3日)。