下院議員は18歳以上の男女による普通投票で選ばれる。下院は定数130議席、うち15議席は女性議席、12議席は宗派・マイノリティ議席(任期4年)からなる。被選挙権は30歳以上の国民であることが条件となる。2020年11月10日、コロナ禍にもかかわらず、第19期総選挙が実施された。投票率は過去最低の29%にとどまった。特徴としてはこれまでで最多の政党からの立候補と女性の立候補、さらに若者の参加率が高かった。しかし女性候補者は5議席減らし、最大野党IAFは5議席減らすことになった。

2011年以降、政治改革の要請にもとづき、政党指導者や法律家やジャーナリストによる包括的な検証を行うための国民対話委員会が設立された。委員会の提言に基づく2012年の選挙法は、SNTV方式の投票に部分的にメスを入れ、150議席中27議席に比例代表に基づく全国区の「政党枠」を導入したが、地方選挙区については1人区でSNTVによる投票が残されたので、SNTVの完全廃止を求める有権者からの評価は厳しかった。反対派からはせめて政党枠を全議席の50%にするべきであるとの声もあった。さらに、2016年の改正においては、SNTVが廃止され、1989年の選挙に近い形で、有権者は選挙区の候補者の数だけ投票することが可能になった。また、政党政治の観点からは、SNTVの場合には投票者が血縁や部族関係を優先して投票したのに対して、連記制への変更によって、2票目を支持する政党に投票することが可能になることで政党が有利になる。さらに、政党に所属する候補者も無所属の候補者も、選挙リストから立候補することが義務付けられた。そのため選挙リスト形成のプロセスで政治的議論が展開された。(EU選挙監視団の報告)

2016年の選挙法では、選挙区は2013年の45選挙区から23選挙区に縮小された。アンマン(5選挙区)、ザルカ(4選挙区)、イルビド(2選挙区)の都市部を除いて、すべての行政区で選挙区は1つになった。ただし、選挙区の再編(45から23への縮小および議席配分の変更)に関しては、人口・地理・発展状況などをめぐる具体的な根拠があいまいであり(EU選挙監視団の報告)、これまでも指摘されてきた都市部と地方の表の格差は依然として存在している(議員比率の偏り、参照)。概して都市部にはパレスチナ系住民の数が多く、またムスリム同胞団系の支持者が多いが、地方(特に南部)住民は保守系の体制派が多いとされる。このため、制度的に南部の地方への議席配分は体制側に有利なものになっているとの批判があった。この批判の論拠についてのさらに厳密な議論は必要であるが、都市部と地方の票の格差は依然として存在していることは事実である。

議員比率の偏り

2016年の選挙法では、人口440万人で国の42%を占めるアンマンには、28議席、人口150万で国の14.3%を占めるザルカには、12議席なのに対して、人口3万で国の1%のタフィーラには、4議席、人口35万で国の3.3%のカラクには、10議席が配分されている。このため、伝統的にアンマンやザルカの投票率が低くなっているものと考えられ、実際にこの2つの都市部では前回2016年の投票率よりさらに低い投票率となっている。アンマン第3選挙区においては、11.7%(2016年、19.2%)と低く、ザルカ第1選挙区では、14.3%(2016年、22.8%)と全国平均を下回っている。政府は新型コロナの影響を指摘するが、議会や政府に対する不信感の表れであるとの指摘もある。

政党の存在感

2020年の総選挙では1992年以来最も多い政党の参加があった。48政党中41政党が選挙に候補者を出し、全立候補者の23.2%にあたる389人が政党から立候補した。しかし12人の党員が当選し、6人の党との協力候補が当選したに過ぎなかった。もっとも有力な政治ブロックはイスラーム主義グループ主導の「改革のための国民連合」は2016年より5議席を減らし10議席にとどまった。左派・民族主義のブロックは1議席もとれなかった。このように、政党からの立候補者が少なく、当選者のほとんどは、実業家、部族基盤の候補者(20人の退役軍人を含む)であり、多くは「個人主義的であり、非政治的であり、サービス志向」(元閣僚の発言)であった。市民活動の立場からは、改革はあるものの、政党法は政党よりは部族基盤の候補者に有利な内容であり、投票行動も部族基盤の投票がつづいており、80%近くの当選者は政党と関与せず特定の政治的イデオロギーを持っていないと評されている(RASED指導者Amer Bani Amer)。制度的な限界に加え、市民から政党への不信感を払しょくするための政党側の対応が遅れていることも問題と考えられる。

女性当選者の減少

女性有権者は全国で464万人だが、多くは男性有権者と同じく、部族や家族への帰属感に基づいて投票しているとの指摘がある(Konrad-Adenauer-Stiftung e. V.)。女性の候補者は増加し、全1,674候補者中360候補者であったが、当選者は女性クオータ枠の15人にすぎなかった(2016年、20人)。全体的に女性の政治参加への関心が高まっているにも関わらず、同一選挙リストに有力な女性候補者が入ると自分が敗北する(2016年には実際に起きた)ことを恐れる男性候補者が他の男性候補者を推すことから、女性有権者の失望感を招いたことが指摘されている。

イスラーム系政党の動向

ムスリム同胞団の政党組織であるIAFは2016年の総選挙の15議席から5議席を減らして、10議席を獲得した。しかしその後、2名の女性議員が脱退したために、IAFのかかわる議会の改革リストのメンバーは8名になった。今回の選挙においては、IAFからの立候補者は14の選挙区で出馬し、全体の得票数の6.5%にあたる83,000票を獲得したが、これは2016年選挙における獲得票157,000票(全体の11.6%)に及ばなかった。伝統的にムスリム同胞団の影響力の強いアンマンやザルカにおいて、投票率は低かった。パレスチナ系住民の多い地域のため、一般的に投票は部族的基盤によるものではなかったが、今回はアンマンで投票率は15%(2016年、23%)にとどまった。ザルカにおいてはIAFの参加する「改革リスト」は1議席(2016年、2議席)しか獲得できなかった。この地域においては選挙結果はすでに概ね決まっているとの諦念や、議会そのものへの不信感がより強いものとみられる。他国や国際社会では同胞団がテロ組織認定を受ける中で、ムスリム同胞団の敗北は必ずしも予想外のことでもなかった。国内においても2016年にムスリム同胞団が非合法化され、さらに政府は同胞団が教員組合を支配し、2019年の教員ストを先導したと批判した(実際には、執行部10人中3人が同胞団員)。しかし同胞団は原則にこだわらず、組織の存続のために影響下のIAFが選挙をボイコットせず参加することを選択したのである。「同胞団は、プレーヤーであることを選びゲームを受け入れ、攻撃を避けるために敗北した」(Rami Adwan, Jordan Country Representative of the Netherlands Institute for Democracy)のである。

青年層の傾向

30歳以下の若者はヨルダンの63%をしめ、多数派である。選挙直前の世論調査で、40%の若者は、部族的要素が自分たちの投票行動に影響すると答えた。また、被選挙権を30歳から25歳まで下げるべきであるとの意見を持っている。若者の多くは主に就職、公正な機会、将来への不安の除去を望んでいるが、新コロナの影響で若者の経済環境は悪化し、ヨルダンの大学卒業生の45%が海外で働く希望を持っているような状況である(中東の中でも突出している)。これはヨルダンの政治改革への無関心や失望の背景になっている。

2020年第19期総選挙 選挙区と議席配分・候補者数

行政区など選挙区一般議席チェルケスクリスチャン女性枠合計
アンマン52521129
イルビド41801120
ザルカ21011113
バルカ1802111
カラク1802111
マアン140015
マフラク140015
タフィーラ140015
マダバ130115
ジェラシ140015
アジュルン130115
アカバ130014
北部ベドウィン130014
中部ベドウィン130014
南部ベドウィン130014
合計231033915130

投票率

200320072010201320162020
58.6%57.1%53%56.6%37%29%

当選者の政治的傾向

議会実施年左派保守イスラーム主義合計
第2期1950142640
第3期1951182240
第4期1954332540
第5期19561520540
第11期1989582280
第12期19937561780
第13期1997769480
第14期200328517110 (6)
第15期2007098110(6)
第16期201011031120(12)
第17期2013 013317150(15)
第18期2016296[18]22130(15)
第19期20200118[2]10(8*)130(15)

注)合計の( )は女性枠、[ ]は保守系政党からの当選者。*その後、2名の女性議員が脱退。