2018年3月に上院の半数改選が行われ、続いて5月末をもって下院が任期を終え、7月に総選挙が実施された。いずれの選挙においても、PTI(パキスタン正義運動党)が予想を上回る躍進を果たして第1党となり、イムラン・ハーン首相が誕生した。州議会においても、ハイバル・パフトゥンハー(KP)州とパンジャーブ州でPTIが与党となった。

また、9月に大統領が任期を終え、上下両院と州議会議員による大統領選挙が行われた。PTIのアリフ・アルヴィ、MMAのファズルル・ラフマーン、PPPのエーティザズ・アハサンの3人が立候補し、アリフ・アルヴィが53%の票を獲得して当選し、9日に宣誓式を行なって第13代大統領に就任した。

上院の半数改選は、52議席について州議会と下院の議員による投票が、3月3日に実施された。単独政党としては30議席を有するPML-Nが最多であるが、PTIが他の4政党すなわちバロチスタン人民党(BAP)、統一民族運動(MQM)、バロチスタン民族党(BNP)、民主大連合(GDA)と無所属議員とともに連立を組み、40議席で与党を構成することとなった。MQMやGDAはともにスィンドでPPPの地盤に挑戦する政党でありバロチスタンのBAPやBNPとともに、パンジャーブとスィンドを地盤とする大政党を下野させたことになる。

一方、下院は2018年5月31日をもって任期を満了し、6月1日に発足した選挙管理内閣の下、下院および州議会の選挙が7月25日に実施された。8月15日下院が召集され、下院議長にPTIのアサド・カイセルが選出された。つづいて17日には首相選挙が行われ、イムラン・ハーンがPML-Nのシャハバーズ・シャリーフを破って首相に選出された。PTIの連立政権は177議席となった(過半数は172)。

今回の選挙は、大政党のPML-NとPPPに新興のPTIを加えた3党を軸に、宗教勢力と地方政党をまじえて争う構図となった。PPPはベーナジール・ブットー暗殺(2007年)以後、夫のザルダリと長男ビラーワルが共同総裁を務め、2008年選挙では政権を担ったが、前回選挙(2013年)ではPML-Nに与党の座を譲り、全国的な指導力の低下が続いている。一方のPML-Nも、ナワーズ・シャリーフ党首が一族の不正蓄財疑惑などで責任を問われ、2018年2月から4月に、最高裁がナワーズ・シャリーフには党首の資格がなくさらに終身にわたって議員資格なしとの判決を下した上、禁固刑判決を受けたことによって事実上政治への復帰は難しくなった。

そのような中で第3の政党としてPTIが存在感を増していった。PTIはクリケットのナショナル・チーム主将であったイムラン・ハーンが1996年に結成した政党で、2002年にイムラン・ハーン自身が初当選し、前回2013年の選挙で初めて第3党となった。「現在の政治体制・制度」で述べたとおり、政治への軍の影響力は大きい。PTI政権が成立しえたのは軍が彼を容認したからだというのが大方の観測である。すなわちPPPとPML-Nに代わって軍の意向を代弁する民主勢力としてPTIが選ばれたのであろうという見方を否定することは難しい。なぜならイムラン・ハーン自身には政策的にも議会活動の面でも、ほとんど実績がなかったからである。

今般のcovid-19の感染爆発への対応でも、イムラン・ハーンが打ち出した地域を限定したロックダウンよりも、軍が主導した全面的なロックダウンをはじめとする対策が実効性を持ち、結局は軍主導の対策となった。

とはいえ、1971年の民主化以来PPPとPML-N以外の政党が与党となるのも、地主でも資本家でもない人物が首相の座に就くのも初めてのことである。「新しいパキスタン」という呼びかけ、あるいは汚職撲滅や教育、保険制度を重視する政策など、大規模なインフラ事業が多かったシャリーフ政権との対比もあって、彼が掲げる清新な公約への期待は大きい。イムラン・ハーンのような新しい政治家や政党の登場が、パキスタンの実質的な民主化へ向かう変化につながるかどうか、注目される。