イエメン
選挙
2019年1月18日

イエメン/選挙

憲法は、議会定数の301すべてを小選挙区により選出すると規定している。1992年に施行された選挙法(92年第41号法)では、選挙権(国籍を有し国内に居住する18歳以上の男女)、被選挙権(同25歳以上)、選挙人登録制、小選挙区単純多数制(比較第1位の候補者の得票が有効投票数の過半数に達しなくとも、そのまま当選。その場合の上位2名による第2回投票はない)、選挙区設置(301小選挙区、人口格差5%以内、選挙区は複数の州にまたがらない)、選挙の運営・管理を行う最高選挙委員会(政府および各政党の代表者を委員とする)の設置及びその職務が規定されている。

1993年4月に実施された第1回総選挙においては、当時の総人口1429万7500人をもとに1選挙区の人口が4万7500人±5%、州別の平均選挙区人口格差が同じく±5%と設定され、全国に301小選挙区(旧北245、旧南56)が設置された。総有権者数は629万900人で、選挙登録した選挙人総数は269万1064人(全有権者の42.8%、うち女性50万1591人)、投票率は登録選挙人の84.5%(全有権者の約36%)。以後の総選挙もこれと同様に実施され、選挙区は人口の変化に応じて選挙ごとに調整されている。議員の任期は当初4年であったが、2001年憲法改正で6年となった。

大統領は直接選挙による公選制で、任期7年、三選禁止。大統領選挙候補者(国籍を有し40歳以上で配偶者が外国人でない者)は、議会(301名)と諮問評議会(111名)の合同会議において定員の5%(21名)以上の推薦を受けなければならず、合同会議は3名以上の候補者を指名しなければならない(候補者が合同会議のメンバーである必要はない)。大統領選挙において、過半数の得票を得た候補者がいない場合は、上位2名による決選投票となる。 

選挙自体は種々の問題をはらみながらも、一般に自由との評価を受けている。しかし、選挙結果比較第1位の候補者がそのまま当選するため、大政党に有利で死票が多い選挙制度となっている。また、選挙のたびに一部の投票所で投票妨害のための暴力事件や混乱が起き、再投票や欠員が生じる事態となる。

2009年4月に予定されていた第4回総選挙は、比例代表制導入を含む議会・選挙制度改革を理由として、2009年4月に議会により2年間延長された。これにより、次回総選挙は2011年4月27日に予定されていた。しかし、2011年1月に始まった大規模な反政府デモにより、この総選挙は実施されず、サーレハ大統領辞任後の2012年2月に大統領選挙(ハーディー大統領信任)が実施された。2013年3月から、新憲法制定のための基本方針を決める包括的国民対話会議が始まった。包括的国民対話会議は2014年1月、連邦制導入などの方針を決定して閉幕した。しかし、翌2015年1月のホーシー派による「革命委員会」設置および3月以降の内戦により、その後はいかなる選挙も行われていない。

(1) 総選挙 

政党・無所属の獲得議席(議席定数301) 
政党199319972003*1
GPC122187229
イスラーハ635346
YSP5607
バアス党722
ハック党200
ナセル統一133
ナセル民主100
ナセル矯正100
無所属485414
301299*2301
  1. 2003年総選挙においてGPCとイスラーハの双方から公認を受け、当選したアハマル議会議長(イスラーハ党首)については、イスラーハの議席に加算した。
  2. 1997年総選挙では、投票の際の混乱により2つの選挙区で当選者を確定できず、2名の欠員となった。 
女性当選者
  • 1993年: 2名(YSP)
  • 1997年: 0名
  • 2003年: 1名(GPC)
1993年総選挙の得票・得票率
政党獲得議席 得票数 得票率 
GPC122640,52328.69%
イスラーハ63383,54517.18%
YSP56413,98418.54%
諸派19政党12142,0076.36%
無所属48600,62027.25%
  • 有権者総数:629万0900人
  • 登録選挙人総数:269万1064人
  • 投票総数:227万1185票
  • 有効投票総数:223万2573票 
1997年総選挙の得票・得票率
政党獲得議席 得票数 得票率 
GPC1871,175,24342.94%
イスラーハ53237,7278.69%
YSP(ボイコット)
諸派10政党5108,2543.96%
無所属54845,626 31,11% 
  • 登録選挙人総数: 454万6306人
  • 投票総数: 282万7369票
  • 有効投票総数: 272万6961票 
2003年総選挙の得票・得票率 
政党獲得議席 得票数 得票率 
GPC2293,465,11757.59%
イスラーハ461,349,48522.51%
YSP7291,5414.86%
諸派19政党5269,2914.49%
無所属14620,61510.35%
  1. GPCとイスラーハの双方から公認を受け、当選したアハマル議会議長(イスラーハ党首)については、イスラーハの得票に加算した。 
  • 登録選挙人総数: 809万7514人
  • 投票総数:620万1254票
  • 有効投票総数: 599万6049票

(2) 大統領選挙 

1999
候補者得票数得票率
アリー・アブドッラー・サーレハ3,583,79596.20%
ナジーブ・カタハーン・シャアビー141,4333.80%
  1. サーレハは現職でGPC公認。
  2. シャアビーはYSP所属の議会議員だが、大統領選は無所属。
  • 選挙人登録総数: 560万0119人
  • 有効投票総数: 377万2941票 
2006年 
候補者得票数得票率
アリー・アブドッラー・サーレハ4,149,67377.17% 
ファイサル・ビン・シャムラーン1,173,02521.82%
ファトヒー・アザブ 24,5240.46%
ヤアシーン・アブドゥ・サイード21,6420.40%
アフマド・マジュディー8,3240.15%
  1. サーレハは現職でGPC公認。
  2. シャムラーン(実業家)は、5野党(イスラーハ、YSP、ナセル統一、ハック党、イエメン人民勢力同盟)による「政党合同会議」の推薦。
  3. サイードは、そのほかの野党による「野党国民会議」の推薦。
  4. アザブおよびマジュディーは無所属。
  • 投票総数: 602万5818票
  • 有効投票総数: 537万7238票
2012年2月21日

アブドッラッボ・マンスール・ハーディー 信任票 662万1921票(信任99.80%)  

 選挙人登録総数 1024万3364人(人口2405万) 

有効投票総数 663万5192票(投票率64.78%) 

・2011年政変におけるGCCイニシアチブの規定に基づく大統領選挙。このイニシアチブには、ハーディー副大統領を唯一の大統領選挙候補とする旨記されており、かつイニシアチブの内容はイエメンの憲法および法律の代替をなし、イニシアチブに対する異議申し立てはできないと記されている。  

参考文献

  • 松本弘「イエメンの民主化」『現代の中東』27号(1999年7月)、pp.27-41。
  • ―――「イエメン民主化の10年」『現代の中東』39号(2005年7月)、pp.24-39。
  • ―――「イエメン:政党政治の成立と亀裂」間寧編『西・中央アジアにおける亀裂構造と政治体制』JETROアジア経済研究所、2006年、pp.95-158。
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