モロッコ/現在の政治体制・制度
現在の政治制度は立憲君主制である。現在の国王は、前国王ハサン二世の死去によって、1999年7月23日に即位したムハンマド六世である。
(1) 国王
モロッコの憲法第42条では、国王は「国家元首」であり、「国民統合の象徴」「国家の永続性を擁護する者」であると定められている。また、第41条では、「アミール・アル・ムーミニーン(信徒の指揮者)」と規定され、国民に対して精神的な面での権威も有している。
王位の継承については、憲法第43条で、原則として直系男子の長子相続が定められている。現在のハサン皇太子は、ムハンマド六世の長男である。
また皇太子が未成年で国王に即位するような事態が起こった場合は、国王が満18歳に達するまで、複数の構成員(議長を憲法裁判所裁判長がつとめ、首相、上下院議長、司法権高等評議会議長、ウラマー高等評議会事務局長、その他国王が任命した10名で構成)からなる摂政評議会が憲法改正を除いて、憲法で定められている国王の諸権利・諸権力を行使する(憲法第44条)。
国王は不可侵で神聖である(憲法第46条)と定められている。
国王は首相の任命権を持つ(憲法第47条)。但し、2011年の新憲法では、首相として任命されるのは、下院選挙で第一党となった政党から任命すると明記されている。
閣議の議長は国王である(憲法第48条)。
国王は、法律が採択され政府に送られてから30日以内に法律を公布する(憲法50条)。また、国王は、憲法第96条、97条および98条に従って、勅令によって、上下院両方またはいずれかを解散させることができる(憲法第51条)。
国王は、国民と議会に向けてメッセージを発することができる。メッセージは上下院それぞれで読まれ、いかなる議論の対象にもすることはできない(憲法第52条)。
国王は、国軍の最高司令官である(憲法第53条)。
国王は外国および国際機関に駐劄する大使に信任状を渡して派遣する。また、モロッコに駐劄する外国または国際機関の大使を信任する。条約への署名と批准をおこなう。ただし、国境に関する条約、通商条約、および国家財政に関する条約は、法律によって事前に承認がなければ、批准することはできない。また憲法の条項に触れる恐れのある条約は、憲法改定の後でなければ条約の批准はできない。(憲法第55条)
国王は、高等司法評議会の議長をつとめる。(憲法第56条)
国王は、高等司法評議会の司法官を任命する。(憲法第57条)
国王は、恩赦の権利を行使する。(憲法第58条)
国土の一体性が脅かされたとき、または立憲体制の機能を阻害する恐れのある出来事が起こった場合、国王は、首相、上下院議長、憲法評議会議長と協議し、国民にメッセージを発した後、勅令によって非常事態を宣言することができる。その場合、国王は領土の一体性の擁護、立憲諸機関の機能回復、国事の遂行に必要な措置をとることができる。
非常事態は議会の解散を伴わない。非常事態の終了は、発令と同じ手続きでおこなわれる。(憲法第59条)
(2) 立法権:議会
1963年の国会開設以来、時期によって一院制と二院制両方の制度が採用された。現在は、二院制である。
1963年に、下院と上院からなる二院制の国会が開設された。(下院議員は、4年ごとの直接普通選挙で選出。上院議員は、6年ごとの間接普通選挙で選出。3分の2は、地方議会の代表から、3分の1は商工会議所および労働組合の代表から選出。)
この議会の会期は、20か月継続した。その後1965年から、新憲法が採択される1970年までの5年間にわたって非常事態が続き、国会不在の時期が続いた。
1970年7月31日に改正された憲法では二院制は廃止され、任期6年の一院制となった。1972年に再度改正された憲法でも一院制は維持された。1972年の改正憲法では、直接選挙で3分の1、間接選挙で3分の2を選出することを第43条に明記した。この割合は、1980年の43条改正によって、直接選挙で3分の2、間接選挙で3分の1と変更された。しかし、モロッコ国内外は不安定な時期を迎え、1971年末から1977年10月まで議会は停止されている。
1977、1984年から始まる会期、そして1992年に憲法が改正された後の1993年から始まる会期でも一院制が維持された。
1996年9月13日に改正された憲法では、二院制が再度採用された。この改正された憲法では、法案が両院それぞれで審議されることが定められた。両院間で異なる審議結果となった場合、内閣は両院から同数の代表からなる委員会を設置し、法案の採択に努めなければならない。同委員会の設置したのちも、調整がつかない場合は、下院の審議結果が優先される。
2011年7月29日に公布された新憲法でも、二院制は維持されている。
下院議員は直接選挙で選ばれ、任期は5年。人数は法律によって定められることになっている(憲法62条)。上院議員は、間接選挙で選ばれ、任期は6年である。人数は90名から120名までと定められている(憲法63条)
議会の権限は、立法と政府の行為の監視である(憲法70条)。法案の発議権は、首相と議員の両方にあり、法案はまず下院事務局に提出される。しかし、国土の一体性、地域開発、社会に関する事項については、最初に上院事務局に提出される(憲法78条)
(3) 行政権:政府
首相は任命されたのち、両院で施政方針演説をおこなう。首相の説明した方針は両院で議論され、下院で採決される(憲法第88条)。
内閣不信任案について、下院が提出する場合は、議員の少なくとも5分の1の議員の賛成が必要である。不信任案の決議には、下院議員の絶対過半数が賛成する必要がある(憲法第105条)。上院が提出する場合は、議員の少なくとも5分の1の賛成が必要であり、決議には絶対過半数の議員の賛成が必要である(憲法第106条)。
(4) 司法権:裁判所
モロッコの憲法は第107条で、司法権は立法権および行政権から独立していると定めている。2011年の憲法改定では、「国王は司法権独立を保障する」という一文が加えられている。また、裁判官は罷免されない(憲法第108条)。
裁判官の昇進や懲罰を監督する司法高等評議会の議長は国王で、構成員は以下の通りである。(憲法第115条)
- 最高裁判所長官(議長代理)
- 最高裁判所付き国王代理検事
- 最高裁判所第一法廷主席判事
- 高等裁判所判事から4名
- 第一級法廷判事から6名(高等裁判所判事からの4名と第一級法廷判事からの6名の計10名には必ず女性が含まれなければならないとしている。)
- 調停者
- 国立人権評議会議長
- 「能力、不偏性、誠実さを兼ね備え、司法の独立と権利の優越に資する人物」として国王が任命した5名。この5名の中に、国王高等ウラマー評議会事務局長が提案した人物1名を含む。