バングラデシュ/選挙
(1)選挙制度
バングラデシュでは、定数300名および女性留保議席50名の計350名によって構成される、5年任期の一院制議会制度がとられている。女性留保議席は普通選挙の得票率にしたがって政党ごとに割り当てられる。選挙にあたっては小選挙区制を採用し、各選挙区からひとりずつ議員が選出される。選挙権は18歳以上のバングラデシュ国籍をもつ者、もしくは法的居住者と認められる者に与えられるが、心身衰弱者、および独立戦争時にパキスタンに協力したとして訴訟された者は除外される。被選挙権は25才以上のバングラデシュ国籍をもつ者に与えられ、心身衰弱者、および二年以上の懲役刑を受けた者で釈放から5年以内の者、独立戦争時にパキスタンに協力したとして訴訟された者は除外される。
(2)2018年国民議会選挙
1991年の民主化以降、アワミ連盟とBNPが交互に政権を担ってきた。そして、政権が交代する度に、野党側が「不正選挙」結果の取り消しを要求し、都市部の暴力団や政党傘下の学生組織を動員して激しい抗議活動を展開してきた。与党側も政策決定過程において実質的に野党を排除し、前政権の汚職の摘発や要職者の逮捕などを通じて、野党の力を弱めようと画策した。二大政党のどちらが政権の座についても、同様のパターンが繰り返されており、今日までバングラデシュの政情混迷の要因となっている。バングラデシュは小選挙区制を採用しているため、両者の獲得議席数で大差がついていたとしても、得票率では拮抗してきた経緯がある(表)。そのため、二大政党のどちらが政権をとっても、野党勢力による支持者を大規模に動員した抗議運動や政治活動が可能となる。
2018年12月30日に実施された国民議会選挙(以下、総選挙)は、電子投票の一部導入やSNSでの選挙活動など、政府の「デジタル・バングラデシュ」政策を反映させる新たな動きが見られたものの、一方で与党側の強権的な姿勢や、与野党の候補者に対する襲撃事件、投票所の一時閉鎖や票の水増しなどが報道されたことから、選挙の正当性に国内外より疑問符がつけられた。
総選挙では、各党に比例配分される女性留保枠50を除く小選挙区300議席が争われ、ALを中心とした与党連合が有効とされた298議席中288議席を獲得し、圧倒的多数派となった。ALは単独で全議席の86%となる257議席を獲得し、ハシナ政権は連続3期目を迎えた。
ALは過去の選挙戦において世俗主義を前面に出す傾向がみられたが、今回の選挙ではイスラーム政治団体15団体からなるイスラーム民主同盟(Islamic Democratic Alliance)の設立を画策し、ALを含む与党連合に対する支持を取り付けた。ハシナ首相は選挙戦を通じて、宗教色の強い非正規イスラーム教育機関であるコウミ・マドラサの教育委員会による大規模集会に参加するなど、イスラーム主義政党と共闘関係にあり、イスラーム保守層を票田に抱えるBNPに対抗する姿勢をみせた。
一方で、贈賄の容疑で逮捕されたカレダ・ジア総裁の保釈を求める最大野党BNPは、中立性が担保されていないとして5年前の前回総選挙同様に選挙をボイコットする姿勢をみせたが、国会に議席がないことによる党のさらなる弱体化を避けるため、野党連合として設立された国民統一戦線(Jotiya Oikya Front:JOF)から候補者を擁立した。しかし、JOFは「公正な政治の実現」を前面に押し出すものの、反ALということ以外に政策的共通性はみられず、また独立戦争時の戦争犯罪に加担したイスラーム主義政党ジャマアテ・イスラーミー(イスラーム協会:JI)と共闘するBNPの加入を否定的にとらえる政党も少なくなかったことから最後まで足並みがそろわず、わずか7議席を獲得するにとどまり、BNPの国政復帰は厳しい船出となった。
(3)非政党選挙管理内閣制度の廃止
2014年の国会総選挙において、BNPをはじめとする野党が選挙をボイコットした背景には、アワミ連盟主導政権による非政党選挙管理内閣制度(以下、選管内閣制度)の廃止がある。選管内閣制度は、96年の憲法改正で正式に導入された制度で、与野党どちらの側にも与しない中立的な立場の暫定内閣を組閣することによって選挙の公正性を担保することを目的としている。同制度下においては、公正な選挙を実施するため、直近に退職した最高裁判所長官を長とする諮問委員会が、暫定選挙管理内閣として政権を引き継ぎ、90日以内に総選挙を実施する。同制度が導入された背景には、1986年の選挙において、当時のエルシャド政権による選挙工作があり、政権側による投票の恣意的な操作があり得ることが政党間および国民の間でコンセンサスとなっていたことがある。同制度のもとではこれまでに3回の総選挙が実施されたが、すべての選挙で与野党逆転という結果を残してきた。選管内閣の下では、それまでの政権与党のマイナスイメージが強調される傾向があることから、一般的に同制度は与党の側に不利に働くと考えられている。
91年の民主化以降初の2期連続の政権党を目指したアワミ連盟は、選挙をできる限り有利に進めるために、2011年の第15次憲法改正で同制度を廃止し、政権党である同党の指揮のもとに2014年の総選挙を実施する手はずを整えた。これに対してBNPをはじめとする野党は、これまで通り政党政治家によらない中立な選管内閣の下で選挙が実施されない限り総選挙には参加しないとの声明をだすと同時に、国会をボイコットし、全国的な抗議デモであるホルタルを実施した。一部の抗議集会やデモ行進は暴徒化し、警官隊との衝突により多数の死傷者がでる事態となった。また選挙前後には手製爆弾が使用されるなど、その暴力性がエスカレートし、国内の治安情勢は悪化した。
(4)地方選挙制度
地方行政機構として、7つの地方管区(Division) 、64の県(District:ベンガル語ではジェラ) 、487 の郡(Upazira:ウポジラ)、4546 のユニオン(Union)に行政区画されている。中央政府より各地方に対し地方行政長官(Divisional Commissioner)が配置され、各県には県行政長官(Deputy Commissioner)が、各郡に対しては郡行政官(Upazila Executive Officer) が派遣されている。県レベルにおいては行政長官が地方行政の実質的な責任者となっている。上記行政区画のうち、以前から選挙による首長及び議員の選出が実施されていたのはユニオンのみである。2008年からはウポジラにおいても選挙により首長が選ばれるようになったが、議会は存在しない。また、県レベルにおいては民選の首長システムは存在しない。
ユニオン議会システムはイギリス統治時代のザミンダール制度の名残で、ザミンダールの持っていた徴税権がユニオン・チェアマンに移された事にその歴史的背景を有する。多くの地方でユニオン・チェアマンはザミンダールの子孫が選出されていた。ユニオン議会では当該地域が9つの選挙区に区分され、それぞれの選挙区からひとりずつ議員が選出される。また、女性留保議席が別途3議席あり、9つの選挙区を3つずつ合わせた選挙区で選出される。ウポジラ選挙においては、議長1人、副議長1人、女性副議長1人が投票により選出される。