民主化以降のインドネシアでは、大統領選出に前後して大連立が組まれることが常態化していた。しかし、直近の2014年大統領選挙はジョコ・ウィドド(以下、通称のジョコウィ)とプラボウォ・スビアントの大接戦となり、その後の国政は大統領選に際して組まれた連立に基づく与野党対立が続いている。当選したジョコウィ大統領が野党切り崩しによる地歩固めを行い、在野の急進的なイスラーム勢力と連合した野党の巻き返しが起こった。そしてインターネット上の辛辣なやりとりが常態化している。国政はもっぱら、2019年の再選を目指すジョコウィとこれを阻止しようとする野党勢力とのせめぎ合いに終始している。

ジョコウィ政権は少数与党で始まり、国会の主要ポストは野党に独占された。しかし老獪な人事と野党の切り崩しを組み合わせ、ゴルカル党、開発統一党が党の分裂を経て与党連合に加わった。明確な野党は、プラボウォのグリンドラ党とイスラーム主義の福祉正義党だけになった。ジョコウィはインフラ整備に力を入れる一方、大統領選で弱みになった、リーダーシップの欠如と世俗的イメージの改善を図り、高い支持率を維持している。

2019年の大統領選に向け、盤石に見えたジョコウィ政権であったが、これを揺るがしたのが2016年末の「宗教冒涜」事件である。きっかけは、華人でキリスト教徒のバスキ・チャハヤ・プルナマ(通称アホック)による「宗教冒涜」発言であった。アホックは9月末の遊説で、コーランの一節を根拠に異教徒の指導者を認めない勢力を茶化した。この発言が編集されてソーシャルメディアで拡散した。イスラーム急進派がアホックへの抗議運動を指揮し、これに野党勢力も加わって、1998年以降最大規模の動員に成功した。ジョコウィに近いアホックへの抗議は、ジョコウィの立場も危うくした。

ジョコウィは一部強権的な手段も使ってこの難局を乗り切ったが、プラボウォ擁立を核とする野党は2019年大統領選挙へ向けて在野のイスラーム急進派との連携を深めている。もっとも、プラボウォは2018年7月時点で大統領選への出馬を明言していない。鍵を握るのは与野党連合から距離を置く、ユドヨノ前大統領とその民主主義者党の動向である。最終的な大統領正副候補の組み合わせは、2018年9月21日の候補者登録締め切りまで予断を許さない。

参考文献

  • 見市建「<インドネシア>庶民派大統領ジョコ・ウィドドの「強権」」『21世紀東南アジアの強権政治 「ストロングマン」時代の到来』明石書店、2018年、209-244ページ。